2017年1月30日

抗凝固療法中の患者にトラネキサム酸の投与

トラネキサム酸の、抗凝固療法中の患者に対する使用例はあるか?


また抗凝固剤の中でトラネキサム酸との併用に特に注意が必要な薬剤はあるか?


なお、メーカーからは長くは使えないとの返答があった。


結論から先に述べますと、使用することは可能とされていますが、実際に投与した症例はほとんどありません。急性疾患であれば、投与の可能性はありますが長期投与は基本的に回避されると考えていいでしょう。


これはトラネキサム酸は止血、湿疹、扁桃炎など炎症、肝斑などに用いられていて、代替薬も選ぶことができるためとも考えられます。。

では裏付けですが、まず使用の可否についてです。


トラネキサム酸が線溶系を抑制することで、血栓を安定化するおそれがあります。血栓のある患者さん(脳血栓、心筋梗塞、血栓性静脈炎等)や血栓症があらわれるおそれのある患者さんでは、慎重に投与してください。[添付文書より]<参考>抗凝固薬は、凝固因子に作用することで血栓形成を抑制します。一方、トラネキサム酸は、線溶系のプラスミンやその前駆体プラスミノーゲンに作用し抗線溶作用を示しますが、血液凝固は促進しません1)。

引用文献:1)安孫子雍史:Medical pharmacy 1976;10(1):7-11

上記の通り、抗凝固薬あるいは抗血小板薬を使用中の方へのトランサミンの投与は可能です。


次に臨床で実際に使われることがあるかどうかという点について考えていきます。


以下の引用にある通りに示す通り、実際に慢性肺血栓塞栓症の患者さんに対してトラネキサム酸を使用して急性増悪を起こしたという症例報告を発見しました。

記載の通り、種々の原因が考えられるところではありますが、トラネキサム酸の投与が増悪の原因の一端となった可能性は否定できません。
症例は 89 歳女性.本態性血小板血症のフォロー中に慢性呼吸不全と診断し,抗血小板療法(アスピ リンの内服)と在宅酸素療法を行っていたところ喀血をきたし緊急入院した.アスピリンの中止とトラネキ サム酸の点滴などで喀血は改善したものの,その後に急激な呼吸不全の進行を認め,諸検査より慢性肺血栓 塞栓症の急性増悪と診断した.アスピリンの再開のみで呼吸不全は改善傾向となりリハビリ後に軽快退院と なった.本態性血小板血症は血小板の増加と機能異常により血栓症状および出血をきたす疾患であるが,肺 血栓塞栓症の合併の報告は少なく貴重な症例と考えられた.また今回の急性増悪の原因としてはアスピリン の中止や安静臥床の他に止血のために使用したトラネキサム酸が関与した可能性もあり,本態性血小板血症 における出血に対して止血剤を使用する場合には十分な注意が必要であると考えられた.日呼吸会誌449),2006665

次に長期で使用する可能性のある肝斑の治療についてです。


肝斑で検索すると多くの皮膚科医院のWebサイトにトランサミンの記述を見ることが出来ます。しかし、その全てに『抗凝固薬服用中の患者には使用しない』と書かれている医院がほとんどです。


そこでメーカーに抗凝固療法中の患者にトランサミンを投与した症例があるかどうかの確認を行いました。

抗凝固療法中の患者での、膝関節の手術後の止血に対しトランサミン注を用いたと言う症例は抄録に記載があったということですが、肝斑に対してなどの長期投与の症例は得られませんでした。


これは抗凝固療法による治療が行われている原疾患と、肝斑などのトランサミンを要する疾患を比較した場合、原疾患の重要性・優先度が高いとかんがえられるからです。




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